~考察~ ハラスメント ③相談もなく決まっていく仕事

相談もなく決まっていく仕事

 

ところが簡単には行きませんでした。あるとき外部スタッフの一人であるM氏からメールが来ました。「エンジンバギーのページを担当することになりました。アドバイスをもらえたらありがたいです」というような内容でした。

「私でできることがあれば」と返信しましたが、M氏からの連絡はそれきりなくなりました。

 

その後、山鼻氏に会ったとき「Mさんから協力要請があったんですが、それから何の連絡もないんですよ」と、気になっていたので話を切り出してみました。

「Mはまったく使えないんで、俺が自分でやる」という返答でした。それならもう、私には関係のない話です。

 

しばらくして、「エンジンの取材へ行くから、朝〇時までに編集部へ来い」というメールが来ました。何のことなのか分かりませんが、「エンジン取材に同行させてやるから、少しは勉強しろ」という意味かもしれないと解釈しました。

編集部へ行ったところ、M氏が担当するはずだったコーナーに、何の相談もなく私が参加することになっていました。

 

ロケ現場について、初めてそのエンジンバギーを見ました。とりあえず説明書を読もうとしたら、山鼻氏から「取説くらい前日までに読んでおけ!」と罵倒されました。ここまで意味不明な罵倒を受けたのは、誇張抜きで生まれて初めてです。その後も、きわめて理不尽な命令と罵倒の繰り返しでした。

 

念のため繰り返しておきますが、私は八重洲出版の社員ではありません。

しかもエンジンバギーのページは、なしくずしに私の担当になりました。事前のプランもなく写真を撮っただけで面白いページにするのは困難です。私が考えた策は、コミック作家の那波ナオキ氏に助けを求めることでした。最終的に、文章とコミックのコラボという構成に落ち着きました。

 このエンジンバギー連載『ばぎるんジャー』は、編集会議に出たスタッフによれば、「かなり好評だった」という話でした。

 

『ばぎるんジャー』の2度目のロケも、例によってスケジュールはまったく知らされていませんでした。昼過ぎまでは京商(バギーコーナーで使うRCカーを作っているメーカー)で新製品の取材、午後から『ばぎるんジャー』のロケということになっていたようです。

 

昼過ぎまで私は何もすることがありません。京商のスタッフさんの一人が、『ばぎるんジャー』の件で私に話しかけてくれました。「坂井さんが担当してくれているんですね。すごく面白いです」と言ってくれました。

そのスタッフがいなくなるなり、山鼻氏が「ああいうマンガはな、京商からすれば全然ありがたくないんだ」と、吐き捨てるように言いました。

意味が分かりません。そもそも私はメーカーを喜ばせるために、あのページを構成したわけではありません。読者を楽しませることしか考えていませんでした。そして読者の反響は良かったそうですし、京商のスタッフさんも(社交辞令かもしれませんが)誉めてくれたのです。

 

そのときの私は、『ばぎるんジャー』のページは記事広告なのか?と疑いました。記事広告というのは、メーカーが金を出してページを買い、実際には広告なのに「あたかも記事のように見せかけて」メーカーを持ち上げる企画のことです。(※後で分かったことですが、ばぎるんジャーは記事広告ではないそうです。だとすれぱ、文句を言われる筋合いは全然なかったことになります。単に「坂井が誉められたので腹が立った」という理由しか考えつきません)

 

とにかく記事広告かどうかが気になっていた私は、帰りの車中で「ばぎるんジャーは一体どういうページなんですか?」と山鼻氏に訊きました。するといきなり大声で「俺の仕切りに何か文句でもあるのか!」と怒鳴り返されました。

すさまじい自信です。これはつまり「自分の仕切りは完璧で、非の打ち所がないんだよ!」ということでしょう。以前「山鼻は“自分より有能な人間なんて見たことがない”と自慢していた」という話を聴きました。私はその場にいなかったので、事実かどうかの断言は避けます。しかし「自分の仕事ぶりは完璧だ」と確信しているらしい人間が、そういう自慢をしていたとしても、私は不自然だとは思いません。

さらにいえば、山鼻氏は複数のスタッフに向かって「お前らの考えなんか全部お見通しだ」としばしば豪語していました。『人間は親子であろうと、恋人・配偶者であろうと、他者を100%理解することはほぼ不可能』と私は考えています。さほど深い付き合いでもないのに、相手の考えを完璧に見通すのは神業レベルです。

 

山鼻氏の異常なまでの自信は「常に他人に難癖をつけ、他人を侮辱して尊大に振舞うこと」で確立されたものだと私は推測しています。『周囲はバカばかり = 自分だけが優秀』という理屈なのだろうと思います。そうでもしない限り、自分を神のごとく思い込むことなどできるわけがないからです。

もっとも山鼻氏は『自分の性格は素晴らしい』という自信も持っていて、「俺は謙虚なんだ」といった発言もしています。しかし、やっていることと言っていることは見事なまでに正反対です。

 

「④父の入院と死」に続きます。